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episode59 「ここはごめんなさいではなく、ありがとう、と」

Author: 小鳥遊梓
last update publish date: 2026-10-31 18:00:32

「黒い服の女性は知っていますね。ちょうど、昨年の話と聞きましたが」

「……あ? あいつに聞いたのか」

 膝に体重を掛ける。

「……あぁ! 若ぇ全身真っ黒の女二人だろ! 知ってる!一人は殺ったがもう一人は知らねぇよ」

 痛みから、答える声が荒々しい。

 こんがらがった糸がほごれていくように、その言葉達から、なんとなくだが事の次第が見えてきたような気がした。もちろん自分の中で腑に落ちただけで、本人と答え合わせをしなければならない。

 二人とは恐らく、内一人は歌うたいで間違えない。戦争により一時国から脱出していたと考えれば納得出来る。ただ姉妹がいたかを私が知らないため、もう一人が誰なのかは分からない。姉妹か使用人だろうが、断定は出来ないため保留とする。

 しかしそのもう一人を野盗に殺されてしまったことで、彼女は魔法により彼らを操り使い潰しているのだろう。恨みも込めて。

 そこまで考えて、一つ息を吐いた。

 まだ分からないことも多い
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  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode60 「私は、ここでは亡霊ではなく人でいいのだと」

     心は凪いでいる。 これまでとは違い、生きているからこそ。余計な雑音は何も聞こえない。 白髪という宿命を負いながら、この場所で見つけた萌芽。私は、この感情が何なのかを知りたい。 しかしその前に。 報いを受けねばならないと思う。 ただ願わくは、生きて騎士としての責務を全うしたい。 しかしそれは、彼女次第である。 クラリカ・ルイズ・パヴリオート。 彼女の。「呆れた。本当に生きているのね」 心底嫌という風に、顔の皺が深くなる。憎しみが翳を刻むかのように。「レクイエムの魔法を聞いて、どうして生きているのかしら。確実に殺したと思ったのに」 昼告のヤグラ。 果たして、教えてもらった通りに歌うたいがそこにはいた。 早朝と同じように。 歌うたいは私を見つめるのが当然であるかのように、私に視線を浴びせている。「リーデが訪ねてきたとき、私は死ぬのだと思ったわ。なのに奇妙なものね。私たちはまたこうして相対している」 歌うたいは諦めたように、微笑むような柔らかな表情を浮かべていた。「私を殺しに来んでしょう。故郷ではないけれど、ここで死ぬならそれも悪くないわ」「いいえ」 それに、彼女は意外という風に目を見開く。「何故?私はあなたを殺そうとしたのよ」「あなたのお父上が、妻と子供だけは助けてほしいと。そう仰ったのです」 少なくとも、私は。 だがカルムの住民が殺せと言った場合、始末するしかない。死者が出ているのだ、私の良く分からない都合で吞み込んでほしいとは言えないだろう。「お父さまが? それが最期の言葉なのかしら?」 頷く。「そう。本当に、あの方は死ぬときまで」 呆れるように目から口にかけて冷たい笑みが動く。 当時、たしか私は国を生き長らえさせるためだと考えた。だがその言葉から察するに、違うらしい。恐らくは自分より家族の命を優先しての言葉。 そういう人だったのだ。「

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode59 「ここはごめんなさいではなく、ありがとう、と」

    「黒い服の女性は知っていますね。ちょうど、昨年の話と聞きましたが」「……あ? あいつに聞いたのか」 膝に体重を掛ける。「……あぁ! 若ぇ全身真っ黒の女二人だろ! 知ってる!一人は殺ったがもう一人は知らねぇよ」 痛みから、答える声が荒々しい。 こんがらがった糸がほごれていくように、その言葉達から、なんとなくだが事の次第が見えてきたような気がした。もちろん自分の中で腑に落ちただけで、本人と答え合わせをしなければならない。 二人とは恐らく、内一人は歌うたいで間違えない。戦争により一時国から脱出していたと考えれば納得出来る。ただ姉妹がいたかを私が知らないため、もう一人が誰なのかは分からない。姉妹か使用人だろうが、断定は出来ないため保留とする。 しかしそのもう一人を野盗に殺されてしまったことで、彼女は魔法により彼らを操り使い潰しているのだろう。恨みも込めて。 そこまで考えて、一つ息を吐いた。 まだ分からないことも多い。 特に、何故敵地であるフリストレールの地にいるのか。兵士になど見つかった日には即座に殺されるだろう。にも関わらず、彼女たちはこの地まで逃げてきた。 理由があるのか、それとも地理に疎いだけなのか。 思いながら、立ち上がる。 途端。男は右腕を伸ばし、私の手を掴み引き寄せてきた。津波にでも押されたかのようなその圧と、突如加えられた力。まずい、と思ったその瞬間には、もう男の胸板が目の先にあった。 一瞬の隙。 油断していたつもりはない。だが不意に私を引き摺り込まれ、顔をぶたれたような衝撃があったのは事実である。壊れた左腕に三度も痛みを与え、もう大丈夫かと心のどこかで慢心があったのだ。 認めよう。 こうして、体勢を崩されてしまったのだから。 問題は片腕ではあるが、後頚部を締め上げられたこの状態から、どうやって抜け出すか。喉が苦しい。熱い塊に遮られて呼吸がしづらい。「騎士様!」 自警団の誰かが声を上げ、そして何人かが近づいてくる足音が聞こえる。

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     させるものか。 そう思う前に体は動いていた。 理由づけをしている余裕はない。走るのに邪魔な剣をその場に放り出して、巨躯の彼のもとに突っ込む。大槌は頭上から降って来るため、ただ盾になるだけでは彼を護ることは出来ない。 なら無理矢理にでも退いてもらうしかない。 負傷している身に対しては酷だが、いまはそんなことを言っている場合ではないのだ。殴りつける勢いで突進すると、巨躯の彼はそうして大槌の範囲外へとよろける。肩鎧がなければ、私の体格では彼を押し出すことは出来なかっただろう。 低い獣めいた呻き声がひとつ。 負傷したうえに体当たりを食らった巨躯の彼の声だ。だがいまそれに気を向けている余裕はない。「騎士様!?」 その呼びかけにも。 振り下ろされる大槌に対し、腕をバツの形を模して突き出す。あの大きさの大槌に対してでは、気休めにもならないだろうが。しかし何所でその攻撃を受けるかと問われれば、やはり装着した手甲だろう。 私が生存する可能性は、そこで受け止める以外他にない。 そうして、私はその瀑布のような一撃を受け入れた。 だがしかし、やってくるはずの死にも至る重撃は、いつになってもやってこなかった。「なんだ、どうなってやがる!?」 代わりに聞こえてきたのは、焦燥感を孕んだ乱れた音声である。 無理もない。 それは私が一番知りたいことなのだから。 手甲は砕け、私の手は完全に露出してしまっている。大槌の一撃により足元は円形に窪み、その破壊力は明らかだ。土煙が舞い上がり、あたか も煙幕でも張ったかのようである。 それなのに。「なんで無事なんだてめぇ! ぶっ潰れてるはずだろうが、普通ならよぉ!」 私に振るわれた大槌。 だがその一撃は私を粉砕するには至らず、それどころか何故か手首が痺れる程度の影響しかない。代わりに手甲が砕けてしまったわけだが、それほど頑丈に作られていたのだろうか。 それほどに頑強な手甲を身代わりにしてしまったのなら、申し訳ない。針で突くような痛みを鋭く良心の一隅に感じら

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode57 「邪魔だ」

     戦場に戻る途中、敗走する何人かの野盗に遭遇した。 一人だからと襲ってくる者もいれば、そのまま私の横を通り抜けて行こうとする者もいる。素通りする者からは戦意を感じられず、手を下すこともない。 だが襲い掛かってこられると対処せざるを得ない。特に二人以上で固まって逃げている野盗は、敗走してきたとは思えないくらい強気だ。しかも、戦利品である魔弾の発射装置を見せたところで、あまり意味を為さない。 仕方ないため、そういった輩は切って捨てていく。 そうして来た道を戻ると、果たして戦況は一変していた。 あれほど人で溢れていた村の入り口は十数人ほどとなり、野盗に至ってはほとんど見当たらない。一人の男を中心に何人かの野盗がいるだけである。 恐らく頭領、或いは野盗の中でも上位の者。肩には大槌を担ぎ、黒いマントをなびかせている。白茶の髪は縮れてとりとめがない。軍馬のように逞しい身体つきで、その背丈は巨躯の彼に引けを取らないほどである。 対して、自警団もかなり数を減らし、今は十人いるかどうかというところだ。ただ、転がる亡骸たちを見るに自警団の姿はほとんどない。恐らく負傷して村内に退いたのだろう。 そうであってほしい。「騎士様」 私の帰還に気がついた双剣の彼女が、荒い呼吸のまま私を呼んだ。同時に戦士たちの目が一斉に注がれる。「やったんだよな」 射手の彼の問いに、私は戦利品を掲げることで答えとした。それと同時に残った自警団の顔には、おりから吹き出した風のように、静かに、安堵の表情が溢れ出る。 改めて、戦地を見渡す。射手の目はあれからずっと私に向いていたため、初めの二人以外射殺された者はいないとは思うが、それでも戦闘を続行出来る者はそう多くない。いち小隊と思えた野盗の集は、最早目の前にいる大柄な男とそれを取り巻く何人かだけとなった。 あれから、かなり奮闘したと言える。 とても強い村だ。 そう思う。 私という騎士が必要ないほどに。 だが、「やるじゃねぇか、助かった」 自警団の誰かがそう、明確に私に宛てた言葉ではなく独り言

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode56 「黒い服の女なら、去年ぐらいに見たな」

     それと同時に、頭に一撃があったのが分かる。 魔弾で撃たれたのだ。 一撃。また一撃。 重石をつり下げたかのような頭部への鈍痛。だが三発の弾丸を頭に受けたわりに、思ったよりは痛くはない。悪運、というやつだろうか。私へ放たれる魔弾だけ、偶然にも悉く粗悪品らしい。 そして、不具合が生じたということは。「はっ!? 何で平気なんだてめぇは!?」 魔弾の射手は、私への不意打ちに失敗したということだ。それと同時に、隠れ潜んでいた位置も曝け出される。 私が通過しようとした木の、その上。 男性にしては長い、背中までありそうな黄土の髪。白いシャツに黒い上着と、およそ森に潜む射手とは思えない洒落た格好のその男。手には大体人の腕ほどの長さだろうか、黒い筒状の装置の手元にボウガンのような引き金が取り付けられている。 これまで戦場で飽きるほど見てきた、魔弾の発射装置。ただ一つ兵士と違うのは、目には眼鏡のようなものを装着しているということだ。恐らく、それが遠くからの攻撃を可能にする補助装置となっているのだろう。 そのため目がどのような状態なのかは窺えないが、その口は私を仕留め切れなかった驚きからか、半開きになっていた。「魔弾を三発ぶち込んだんだぞ!? 三発だぞ? 死ぬだろうが、普通はよ!」 それは劣化品を引いてしまった自分を恨むしかない。不運だとは思うが。 まだ信じられないのか、彼は枝の上から動く気配はない。分からなくもない。先刻のものも含めて四発、見事に命中しているのだから。ただそれで、完全に動きを止めてしまっている点は、切り替えが遅いと言わざるを得ない。私が幹を駆け上がり、到達しようとしているにも関わらずだ。「待て、待て待て待て!」 手を伸ばし何かをしようとして、その実何もしていないその男。片手を意味もなくさまよわせている。「なんでてめぇがこんなところにいるのかは知らねぇが、おれの顔に見覚えあるだろ。見逃せよ」 苦し紛れだろうか、そんなことを口にした。「記憶にありません」 もう一度、顔をじっくりと観察する。記憶の中をさっと

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode55 「じゃあ、そいつを見つけないとだね」

     突如飛来した魔弾は中空を奔り、そのまま自警団の一人に直撃した。「なんだぁ?」 恐らく見たことがないであろう兵器の襲撃に、巨躯の彼が思わずそう漏らす。いち村人が、本来は首都の兵士だけが持つ武器と相対する機会などないだろう。 その驚愕はすぐさま他の自警団も感じ取った。 今まで野盗と剣戟を交わしていた仲間が、硝煙を上げながら倒れたのだから。白目を向いて地に横たわったその様を見るに、もう事切れている可能性が高い。 突然飛来し、仲間の命を奪う謎の物体。これまで村を自衛してきたといっても、見た限り自警団は三十人程度だ。その事実は波紋が広がるように瞬く間に伝播した。 なんだ今のは。 自警団の一人が叫ぶ。 何人かは事が呑み込めず動きを停止してしまっている。「おい騎士様! ありゃなんだ!?」 焦燥感を含む声で、巨躯の彼が私に問う。「あれは魔弾と呼ばれる武器です。筒状の装置から弾を込めて発射するという構造です」「なるほどな! だがどういうことだ、発射する奴がいねぇぞ!」 焦りからか、叱る様な大きい声を出す。「使用したことがないので詳しくは分からないのですが、どうやら長距離を攻撃出来るようです」「じゃあ、そいつを見つけないとだね」 会話していたはずの巨躯の彼の代わりに答える別の声。それはいつの間にか私たちに接近していた、双剣の彼女だった。「セシルか、無事だったんだな」「このくらいは、ね!」 言いながら、野盗の背中を的確に貫く。 だがその間に弾丸はもう一つ飛来して、名も知らぬ自警団の頭部に炸裂した。 やはり記憶のとおり、きちんと頭部に命中すれば命を奪うことの出来る武器だ。私のときはたまたま、弾が劣化していたに違いない。「おう、そりゃ同意だが……」「私が行ってまいります」 方向も記憶している。その場に留まり同じ場所にいるわけはないが、方角は同じはずだ。「騎士様が? 行けるの?」「どのみち、あれは脅威

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